水球競技におけるデータ速報システムとゲーム分析

−1995年福岡ユニバーシアードについて−

○洲 雅明(大分県立芸術文化短期大学) 榎本 至(中央大学保健体育研究所)

鈴木茂廣(名城大学) 南 隆尚(鳴門教育大学) 

藤本秀樹(慶応義塾幼稚舎) 高木英樹(三重大学) 

若吉浩二(奈良教育大学) 原 朗(東京情報大学)

The Quick Information System and Analysis in Water Polo Games

- The 18th Universiade 1995 Fukuoka -

Masaaki Suga1), Itaru Enomoto2), Shigehiro Suzuki3), Takahisa Minami4), Hideki Fujimoto5), Hideki Takagi6), Kohji Wakayoshi7), Akira Hara8)

【abstract】

The purpose of this paper is to describe the quick information system of water polo games in the Universiade 1995 Fukuoka and later to make clear the characteristics of each team by analyzing the data. 60 subject games were analyzed by the number of shots, percentages of goals, personal fouls, and percentages of goal keeper saves.

The information of each game was distributed to spectators, including some comments on the game with 30 minutes of the games' finish. And then the players were ranked according to each games' data. It suggested that spectators were interested in watching the games of water polo because of each games' data and ranking.

After the Universiade, the characteristics of each team were found by summing up the data of each game. All the data tended to be bigger as the teams' ranking increased. But in the case of the JPN team (ranking No.10), it became clear that the percentage of goals was high as compared to the number of shots.

 

1) Oita Prefectural College of Arts and Culture, Uenogaoka Higashi, Oita (870), 2) Chuo University, 3) Meijo University, 4) Naruto University of Education, 5) Elementary School of Keio University, 6) Faculty of Education, Mie University, 7) Nara University of Education, 8) Tokyo University of Information Sciences

 

【緒言】

ボールゲームの分析は、一般に得点、パス、ファウル、ミスに関する内容、攻防のフォーメーションパターン、選手の移動軌跡などについて行われてきている。このような内容に関する分析をゲーム中に即時行い、作戦の変更や選手交代に役立てたり、また試合後に分析を行い、作戦を立案する際に利用したり、ゲーム特性からトレーニング方法に関する情報を得るための研究が行われてきた2)。その方法としては、スコアシートに記入する方法1)、ビデオ撮影後に分析する方法11)、コンピュータ入力によるリアルタイム分析法10)が用いられている。水球競技においても、プレーヤーやボールの動き12)、得点差8)、退水3)6)、攻撃・防御パターン4)9)、リアルタイム分析5)7)などの研究が行われている。

ところで、近年日本国内でも頻繁に、様々な競技の国際試合が開催されるようになった。そこでは、競技運営を円滑に進めるだけでなく、各試合の結果や大会中の各種データを客観的にフィードバックする必要性が求められる。そのために今後は、公式記録のデータベース化、データの報道機関への提供、パンフレットの配布やモニタでのリプレイなど観客やファンへのサービスの必要性も重要であると思われる。

これまで水球競技では、研究や戦術のためのゲーム分析は行われてきたが、得点、シュート、退水、キーパーなどに関するゲーム状況の速報は国内では行われていない。このような内容のデータが、試合毎に速報されれば、観客は注目する選手や活躍度を知ることができ、試合をより楽しめることができる。

そこで福岡ユニバーシアードでは、これまでのゲーム分析を参考にして、観客がより興味を持てるようにゲーム状況の速報を行ったので、そのシステムと内容を報告する。また、速報に使われたデータは後に集計することにより、水球のゲーム状況を把握したり各チームの特徴を知ることができる。そこで、速報システムを報告することに加え、得られたデータを集計して今後の水球の発展に有用なデータを提供することも行った。

 

【方法】

1.分析試合及び分析期間

対象としたデータは、1995年8月24日〜9月1日に行われた福岡ユニバーシアード大会水球競技における全60試合(16チーム)であった。この大会での各チームの成績は表1に示すとおりであった。なお、チーム別のデータを比較する際に、1〜4位を上位チーム、5〜12位を中位チーム、13〜16位を下位チームとした。

表1 1995年福岡ユニバーシアード水球競技における順位と国の略称

順位

国名

略称

1

ユーゴスラビア

YUG

2

ハンガリー

HUN

3

オーストラリア

AUS

4

ロシア

RUS

5

フランス

FRA

6

オランダ

NED

7

カザフスタン

KAZ

8

イタリア

ITA

9

アメリカ

USA

10

日本

JPN

11

スロバキア

SVK

12

中国

CHN

13

ブラジル

BRA

14

ギリシャ

GRE

15

韓国

KOR

16

カナダ

CAN

2.分析システムの構成及び流れ

図1に示すとおり、試合開始とともにデータの記入(記録員1名、補助員1名)、戦評の作成(記録員1名)をプールサイドのオフィシャル席右横で試合の終了まで行った。次に、コンピュータ室にてデータの集計と入力、戦評の入力と校正を行い、プリントアウト(各A4版)した。その後、データの集計と戦評を合わせ(A3版)、100部コピーして試合の速報用紙(A4版)を完成させた。それを即座に2階の観客席入口の受付で、入場する観客に配布した。大会期間中は以前の試合のデータも配布できるように補充した。なお各行程に要した時間は、ゲーム分析に50〜60分、データ入力及び作成に20〜30分であった。

3.分析項目および速報用紙

分析項目は、@チームの攻撃数、A各選手のシュート数、B得点数、Cシュート成功率=[得点数/シュート数]、Dパーソナルファウル(注1)奪取数(奪PF数)、E被パーソナルファウル数、Fキーパーのシュートセイブ数(キーパーセイブ数)、Gキーパーのシュートセイブ率(キーパーセイブ率)=[キーパーセイブ数/(キーパーセイブ数+自チームの失点)]で、表2に示す分析用紙に記入を行った。

表2 ゲーム分析記入用紙(片方チーム分)

また表2は、ゲームNo.29のAUS対JPNの分析記入用紙である。各ピリオド毎に記入欄を設け、それぞれの項目で斜め線のチェックを行った。シュートの場合は、シュートするとその選手の欄に斜線を記入し、それが得点になると反対の斜線を入れて×印を記入した。PFやキーパーセイブ率に関しては、斜線だけを記入した。各ピリオドに項目毎の確認を行い、ゲーム終了後直ちに全体の集計を行った。

戦評は、チームの分析、個人能力の分析、競技上の観点という3つの項目に分けてそれぞれ400字程度の文章を作成した。作成に当たっては、スタートリスト及び前試合までのデータを参考にした。各試合で集計したデータと戦評を合わせて、表3に示すような速報用紙(A4版)を作成した。

 

4.個人データの集計と個人ランキングの作成

1次予選が終了した後から、各ゲームのデータを選手ごとに集計して得点(得点、シュート数、シュート成功率)、奪PF数、キーパーセイブ率に関する個人ランキングを速報していった。得点ランキングは、得点数が多い選手から順位付けし、総シュート数とシュート成功率を記入した。奪PFは獲得数が多い選手から順位付けした。キーパーセイブ率は、試合の出場時間が少ない選手を除外するため、キーパーセイブ数+自チームの失点が50以上のキーパーを対象とした。

5.各チーム毎の集計

大会後には、これらのデータをもとに、各チーム毎のシュート数、シュート成功率、奪PF数、キーパーセイブ率を算出し比較を行った。

 

(注1) パーソナルファウル(PF)とは、@退水を伴うファウル、Aペナルティスローを伴うファウルのことで、1ゲームに同じプレーヤーが3回犯すと、そのゲームには出場できなくなる。また、退水を獲得した場合には、20秒間1人少ない状態で攻撃でき、ペナルティスローを獲得した場合には、キーパーと1対1でのシュートが与えられる。

 

【結果と考察】

1.速報データについて

(1)各試合の速報について

表3は、2次リーグにおけるAUS対JPNの速報用紙である。このゲームは、戦評に示す通りAUS優位と思われた試合であった。しかし、JPNが前半リードしてもう一歩で逃げ切れるゲームであったが、結局引き分けで終了した。攻撃回数は、AUSが43回、JPNが48回でややJPNの方が多かった。シュート成功率は、AUSが8/28(28.6%)、JPNは8/12(66.7%)であった。これは、少ないチャンスをものにしたJPNが健闘した原因のひとつと考えられる。個人別にシュート成功率を見るとAUSの6番の選手の確立が0/7と低かった。奪PF数は、AUSの7に対してJPNが9であった。その中でもJPNの13番の選手が3つ獲得していた。キーパーセイブ率は、AUSのゴールキーパーの1/9(11%)に対して、JPNは13/21(62%)と高い値であり、ゴールキーパーの活躍も健闘のひとつと考えられる。以上のような速報用紙を60試合に渡って作成し、観客及び各チームに配布した。

表3 ゲーム分析速報用紙

チームの分析
白キャップのオーストラリアは、予選1次リーグを首位で通過し、同3位の日本を相手にやや油断があったかもしれない。総合力では、日本を上回るオーストラリアだが、日本の奇襲作戦に翻弄され、攻守ともいつものオーストラリアらしさが出せなかった。
青キャップの日本は、強豪オーストラリアを相手に思い切った戦術を展開した。攻撃では敢えてフローターを置かず、プレーヤー全員がカットインを繰り返しながら、何とか退水を取ろうという作戦。この作戦が功を奏し、分厚いオーストラリアのディフェンスの壁を機動力でぶち破って、チャンスを数々作った。またディフェンス面では、新しく取り入れたディフェンス形態をこの大試合で作用した。通常のゾーンディフェンスをやや変形させたものであるが、これがうまく機能し、オーストラリアの攻撃をうまくかわした。
個人の能力の分析
白キャップオーストラリアのNo.2マースデンは、不調に終わったエースの代役を務め、3点を上げる活躍をした。
青キャップの日本のNo.1水谷選手は、外国人キーパーと比べると体力的なハンディは、明らかである。しかしその水谷が今日ほど大きく見えたことはない。オーストラリアのミドルシュートをことごとく止め、まさに日本チームの守護神としての役割を十分に果たした。62%という非常に高いセイビング率が今日の活躍を物語っている。同じくNo.13佐藤選手も今日の大殊勲の立役者と言える。巨漢のオーストラリア選手に果敢にカットインを試み、計3つのメジャーファウルを奪った上、自らも同点に追いつくペナルティシュートを決める活躍をした。
競技上の観点
白キャップのオーストラリアは、日本の先制パンチを喰らい、浮き足立ってしまった。第3ピリオドにいったんは逆転したが、再び最終ピリオドに追いつかれ、オーストラリアには痛い引き分けとなった。
青キャップの日本は、総合力で上回るオーストラリアに対して引き分ける大殊勲を上げた。勝因は、新しいディフェンス体型を取り入れるなど日本の積極的な姿勢にあると思われる。また、攻撃に関しても、オーストラリアの裏をつく作戦を展開し、試合開始後3連続得点を上げるなど、今日の日本チームには神風が吹いたと言える。日本チームの実力は確実に上がっていることを満員の観客の前で示したわけであるので、明日以降益々の健闘を祈りたい。

 

(2)個人選手のランキングについて

表4は、個人選手の得点(シュート成功率)、奪PF、キーパーセイブ率のランキングをそれぞれ10位まで示したものである。最多得点の選手(HUN)は、8試合で27点をあげた。またシュート成功率は47%であった。最高シュート成功率の選手(AUS)は、得点2位の選手で67%であった。最多奪PF数の選手(ITA)は、8試合で42個のPFを奪った。最高キーパーセイブ率の選手(HUN)は、69%であった。各ランキングとも、上位チームの選手が目立った。

2.本大会のデータからのゲーム分析

大会終了後にチーム別の集計を行うことによって、本大会における各チーム毎の特徴が明らかになった。分析項目の中から、シュート数、シュート成功率、奪PF数、キーパーセイブ率に関して比較検討を行った。

(1)シュート数について

表5にチーム別のシュート数(1試合平均)を示した。シュート数は、19.9(JPN)〜29.6本(HUN)であった。シュート数が多いチームは上位に目立ったが、JPNのように中位の割に少ないチームもあった。

(2)シュート成功率について

表5に各チームのシュート成功率(1試合平均)を示した。シュート成功率は23.7(CAN)〜47.9%(YUG)と大きな差があった。JPNはシュート数が19.9本で16チーム中最少であったが、シュート成功率が46.5%と2番目であった。これは確実にシュートをして確実に得点を獲得したことになる。シュート成功率の高さは、上位チームに目立ったが、ITA、JPNのように順位の割に高いチームもあった。高木らの研究5)によると1985年のユニバーシアード神戸大会では、シュート数は1試合に26.9本、得点は11.7点、シュート成功率は43.5%であった。本大会のシュート数は25.0本、得点は9.3点、シュート成功率は37.0%であり、いずれも神戸大会より低い値を示している。この理由には、ディフェンス面の強化やルール変更などの影響が考えられる。

(3)奪PF数について

表5に各チームの奪PF数(1試合平均)を示した。奪PF数は、4.7(BRA)〜11.0回(YUG)であった。下位ほど少ない傾向にあったが、中位に少ないチーム(KAZ)と上位に多いチーム(YUG、HUN)があった。得点パターンなども分析して、奪PFがそのチームの攻撃パターンであるのかなども分析する必要がある。また、高木らの研究6)によると1985年の神戸大会の5試合を抽出した結果、奪PF数と類似の内容を示す退水出現数は17.8回(1試合平均)であった。1チーム当たりの退水獲得数で見ると8.9回で、本大会(1試合平均7.7回)の方が1.2回少ない結果であった。これは、分析対象試合数の違い、その後のルール改正(1991)、攻撃パターンの相違、レフェリーの判定基準の差異などからくるものと思われる。

(4)キーパーのシュートセイブ率について

表5に各チームのキーパーセイブ率(1試合平均)を示した。キーパーセイブ率は、35.6(SVK)〜61.9%(HUN)であった。上位でも低いチーム(YUG、AUS)と中位でも高いチーム(KAZ、ITA、JPN)があった。これは、もちろんキーパー個人の能力と考えられるが、それに加えてディフェンス力も加味されていると考えられる。

3.速報データに関する問題点

分析項目が基本的な内容であり、水球に詳しい観客には物足りなかったと思われる。また、今回の目的は、観客へのサービスであったが、各チームの作戦立案の際にも利用できるデータ作りが必要ではないかと考えられた。このため、大会後に分析したチーム別の特徴などのデータを大会期間中に、提供していく必要があったと考えられる。

 

【まとめ】

本研究の目的は、福岡ユニバーシアード大会(1995年)水球競技におけるデータ速報システムの概要を述べ、後に行った分析により各チームの特徴を明らかにすることである。対象ゲームは全60試合で、シュート数、シュート成功率、パーソナルファウル、ゴールキーパーのシュートセイブ率などを分析した。

ゲーム分析の結果は、戦評を加え速報用紙として、各ゲームの終了20〜30分後に観客に配布した。また、各ゲームのデータを集計して、個人ランキングを発表していった。これにより、観客はより興味を持って試合を観戦することができたのではないかと思われる。

大会後は、各ゲームのデータ(シュート数、シュート成功率、パーソナルファウル奪取数、キーパーセイブ率)を集計して、各チームの特徴を分析した。上位チームほど、各データ値は高い傾向にあった。しかし日本チームのようにシュート数は少ないが、シュート成功率が高いチームがあることなども明らかとなった。

 

本研究の分析の実施にあたっては、ユニバーシアード福岡大会水球競技の競技役員ならびに日本水泳連盟水球競技科学研究部の協力を得た。ご協力をいただいた方々に、深く感謝いたします。

 

【参考文献】

1)平野裕一:野球のゲーム分析 −スコアリング法による,体育の科学,36(9),704-707,1986.

2)石井喜八:作戦の基盤としてのゲーム分析,体育の科学,36(9),688-689,1986.

3)南 隆尚,坂田勇夫,高橋伍郎,椿本昇三,高木英樹,今村まゆみ,松波 勝:水球競技における退水時間の短縮による試合に及ぼす影響,日本体育学会第43回大会号B,p.720,1992.

4)洲 雅明,高橋伍郎,坂田勇夫,椿本昇三,高木英樹,今村まゆみ,高野裕史:水球競技におけるセットオフェンスの分析,日本体育学会第40回大会号,p.761,1989.

5)高木英樹,高橋伍郎,坂田勇夫,野村武男,椿本昇三,松井敦典:水球競技のリアルタイム処理によるゲーム分析 −85ユニバーシアード神戸大会におけるシュートに関する分析−,日本体育学会第37回大会号,p.358,1986.

6)高木英樹,高橋伍郎,坂田勇夫,椿本昇三:水球競技における退水状態での6対5の攻撃方法について,日本体育学会第39回大会号B,p.620,1988.

7)高木英樹,高橋伍郎,坂田勇夫,椿本昇三,本間正信:水球競技のリアルタイム処理によるゲーム分析の検討,筑波大学体育科学系紀要,第12巻,95-105,1989.

8)高木英樹,立波 勝,坂田勇夫:水球競技における試合の勝敗を決定する要因に関する研究 −世界選手権パース大会(1991年)について−,三重大学教育学部研究紀要自然科学,第43巻,63-69,1992.

9)高木英樹,野村照夫,南 隆尚,佐谷 剛,坂田勇夫:水球競技の攻撃パターン −高校、大学、世界選手権の各レベルにおける攻撃パターンの特徴について−,日本体育学会第43回大会号B,p.719,1992.

10)戸苅晴彦:サッカーのゲーム分析 −リアルタイム処理法による,体育の科学,36(9),699-703,1986.

11)椿本昇三,坂田勇夫,阿江通良:水球のゲーム分析 −DLT法による−,体育の科学,36(9),712-716,1986.

12)椿本昇三,高木英樹,坂田勇夫,高橋伍郎,新野公明:水球のゲーム分析 −泳距離、移動軌跡、泳速度について−,茨城大学教養部紀要,第19号,231-241,1987.

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