Epistula Vol.72「冷戦終結の思い出」(2023年9月8日)

Epistula Vol.72(2023年9月8日付)掲載

 私は世界銀行であるチェコ人と親友になりました。彼は留学中に亡命したため故国に帰ることができず、父親の死目にも会えませんでした。私の帰国後にベルリンの壁の崩壊などの事件が起こりました。その頃、彼と東京で会い次のような話を聞きました。

 ベルリンの壁の崩壊を見て「そろそろ故国に帰ることもできるのでは?」とワシントンのチェコスロヴァキア大使館に行ったのですが、大使館はビザを出す用意はある一方、彼のパスポートではなく紙切れにビザを捺印するというので、紙きれをなくした途端逮捕されてしまう、と一旦諦めたそうです。ところがその晩テレビで、チェコの新政府の外相が「亡命者に対し嫌がらせをしている大使館があれば、大使をすぐに首にする」と答えていました。すると翌朝7時にチェコ大使館から電話があり、「君のパスポートにビザを印刷するのですぐに持ってきてくれ」と言われ、20年ぶりにチェコに帰ることになりました。プラハの南400キロにある故郷に着いたのは夜でした。前もって母には連絡しておいたのですが、自宅に着くと家は真っ暗です。怪訝に思いながらドアを押すとドアが開き、電気がついて、村人全員が、「お帰り!」と歓声を上げてくれました。

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